ウェイトトレーニングなどの高い負荷をかけたトレーニングを行なうと、 内分泌系にも悪影響がでてきます。まず、ストレスホルモンと呼ばれるコルチゾールが分泌され、 筋肉をエネルギーとして使おうとする異化が促進されます。逆にコルチゾールが増えることによって、 筋肉を作ろうとする同化を促すテストステロンのレベルが一時的に低下してしまいます。 コルチゾールによって抑制されるテストステロンのレベルは、トレーニングを終了してから数時間から 数日間低下したままになります。しかし、平均的なトレーニングであれば、24時間程度でテストステロン レベルは元に戻るでしょう。
これらのホルモンが元に戻るのは、身体に備わっている恒常性を保つ機能によるものです。 哺乳類は一般に自律神経と内分泌腺が主体となって外部環境の変化(気温や湿度) や主体的条件の変化(トレーニング等)によって内部環境に影響があった場合、元に戻そうという機能が働き、 常に一定の状態を保つように出来ています。これを「ホメオスタシス」と呼び、 このホメオスタシスによって、トレーニング後に起こった様々なホルモンのアンバランスは やがて正常な状態に戻るのです。
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ホルモンレベルの疲労を回復させるには、エネルギーレベルの疲労を回復させる時間に比べて 長くかかります。もしも、トレーニングが非常にハードだったり、量が多すぎた場合は24時間で回復するはずの ホルモンレベルも回復できなかったりします。注意しなければならないのは、 後で述べる筋肉の収縮性タンパク質の回復すなわち筋肥大を起こすためにはエネルギーレベルやホルモンレベルの 回復がなされている必要があるため、ホルモンレベルの疲労が回復していない状態でのトレーニングは 意味の無いものになってしまうのです。
トレーニングを無意味なものにしてしまわないためには、特にナチュラル・ビルダー はホルモンレベルの回復を気にする必要があります。例えば、ステロイド等を用いているアスリート は、強制的に体内のホルモンバランスをコントロールしているので、理論的にはホルモンレベルの疲労が 回復したことになります。そのため、かなりの量のトレーニングを行なうことができます。 ナチュラルであれば、そのような人たちのトレーニングメニューを真似ることがどれほど危険であるかを 十分知っておくべきなのです。
しかしながら、薬物に頼らなくても、サプリメントである程度はホルモンバランスの分泌を 促すことも可能なので、一般の人はサプリメントでホルモンレベルの回復を図りましょう。
筋肉はトレーニングによって破壊され、それを修復する過程で超回復が起こり、 以前より大きな筋肉が作られると考えられていますが、収縮性タンパク質の回復を起こすことこそが、 トレーニングをする最大の目的であると言えます。そして、トレーニングの強度によって、 筋肉の破壊の度合いが違ってきます。
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筋肉を極端に傷つけない程度のトレーニングを行なった後は、筋肉の収縮性タンパク質 (一般的にはアクチンとミオシン)が徐々に回復を始めます。トレーニングが中程度の強度なら、 比較的早く回復が行なわれ、16時間〜28時間で回復するという調査結果があります。 もちろん、筋肉によっても回復時間が違うのは当然で、小さな筋群であれば16〜17時間程度で回復するでしょう。 大きな筋群であっても、24〜28時間で収縮性タンパク質は回復すると言われています。 また、収縮性タンパク質の回復は一定の割合で回復していくものではありません。 始めのうちは効率よく回復していきますが、後半になるとゆるやかに回復していくようになります。
トレーニングの強度が非常に高い場合は、やはり回復時間も長引き、 24時間〜48時間もかかってしまうことがあります。そして筋肉のダメージを考えた場合、 単に高強度ということだけでなく、ネガティブレップスについても考えなくてはなりません。 ウェイトトレーニングならば、ウェイトを"下ろす"時のほうが筋肉に与えるダメージが大きくなり、 筋肉の収縮性タンパク質の回復の時間が長くなります。ネガティブ法を好んで行なうトレーニーや、 登山の下り、あるいはスキーやスノーボード等はネガティブ動作に非常に負荷がかかるので注意が必要です。
また、筋肉の収縮性タンパク質の回復には、あらかじめエネルギーレベルやホルモンレベルの回復が なされていることが必要条件であることも忘れてはいけません。
神経系の疲労は最も回復させにくい疲労です。神経というだけあって、 脳の指令を筋肉に伝える役目を果たしているため、この疲労によって筋肉が出せる力は低下し、 敏捷性も低下してしまいます。
また「神経伝達物質の減少」からくる疲労もあります。 これによって神経伝達が鈍ると動作や反応が遅くなったり、頭の回転が遅くなるのが自覚されるようになります。 神経伝達物質にはいろいろなものがあるのですが、ここでは特にカテコールアミンとよばれるものが重要となります。 カテコールアミンの原料となるのは、アミノ酸のチロシンです。 チロシンを多く含む食材はタケノコや魚類ですから、神経の疲れを感じたときにはこういったものを 食卓に摂り入れるようにするのも良いかもしれません。 また神経伝達そのものを良くするためにはビタミンB群が不可欠となります。 B群は後述する疲労物質除去にも非常に役立ちますから、できるだけ多めに摂取する事を心がけたいものです。 同じ神経伝達物質でも、疲労を感じさせるものもあります。これはセロトニンと呼ばれるもので、 リラックス効果や誘眠効果を生み出しますが、疲労感をももたらしてしまいます。 このセロトニンはトリプトファンというアミノ酸から作られるのですが、 このときにBCAAというアミノ酸があると、トリプトファンは脳に入り込めなくなってしまうため、 セロトニンを作り出せなくなります。つまりセロトニンが原因となる疲労には、 BCAAの摂取が有効だということですね。ただし問題があって、 食事でタンパク質を摂ればBCAAも摂取できるのですが、食物には通常、 トリプトファンも一緒に含まれています。これではBCAAが効果を発揮することはできません。 ですからこの場合はサプリメントとしてBCAAそのものを単体で摂取することが有効となるでしょう。
この神経系の疲労を回復させるのには非常にたくさんの時間が必要です。 実験によれば、高強度のトレーニング後に起こる神経系の疲労は10日かけても完全には回復させることができなかった という報告があります。
以上のことから、完全なる疲労回復とは、神経系が回復した時点を指すのであり、 神経系が回復できる範囲でトレーニングを行なう必要があるわけです。神経系が回復できる範囲で強度、 量を設定し、十分な休息をとるように計画することが筋発達のカギなのです。
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