§1 疼痛緩和ケア
悪性腫瘍は激しい痛み疼痛に襲われる事が多く、耐え難い辛い痛みは大きな不安をも伴うものです。殊更夜間の
疼痛に襲われるのではないかor襲われた際の不安から、安らかな睡眠とはほど遠く、精神的な辛さもはかり知れ
ない大きさとなります。疼痛は絶望感を増大させます。 疼痛緩和ケアの果たす役割は絶大なのです。痛みをコン
トロールできる事でそれにまつわる環境を含めて、その効果、安らぎはQOLを大きく向上させます。疼痛緩和ケア
にたいする 従来の考え方には 多くの誤解もありました。 モルヒネなどのオピオイド鎮痛薬の 医療目的の使用が、
薬物乱用の問題を助長する、薬物依存症になる事により、命が短縮するなどがそれである。
欧米では既に過去四半世紀に亘り、オピオイド鎮痛薬が使用されてきた実績があるが、医療用モルヒネあるいは
その他のオピオイド鎮痛薬の痛みに対する長期使用でも精神的依存の発生は皆無に等しく、何より患者さんのQ
OLの向上に大きく貢献している事は確認されている。痛みを抑えるためにも、患者さんは医療関係者にその痛み
の状況を伝える必要があります。身体のどこが、どの程度の痛みの強さで(10段階でどのあたりか)、どんな状況
の時に起きるのか、痛みの持続時間や、どんな痛みの種類なのか(鈍痛、キリ� ��リ、チクチク、えぐられる様、熱感
を伴うのか、締め付けられる様な、重いなど)を、伝えてください。それにより医療関係者は、その痛みの種類に応じ
た治療法を決定できます。
* 緩和ケアを取り巻く環境;1990年にはホスピス緩和ケア病棟への入院料が健康保険の対象になり、 2002年に は一般病棟で専門家チームによって緩和ケアを受けた場合でも健康保険が適用される様になりました。更に、近年
では、その対象や内容は変化しております。即ち、終末期だけを対象にするのでは無く、治療の初期段階から提供
され得るものとされており、この事は、「癌対策基本法」を受けて策定された「癌対策推進基本法」の中でも明記され
ており、家族もケアの対象としております。
癌に罹患する事で、生活全体の調和は崩れ、患者さんやご家族は多くの苦痛や問題に直面します。緩和ケアで大
切なのは、 苦痛を一面的に捉えるのではなく、全人的苦痛(身体・精神・社会・実存などの各面)として捉える事の
大切さを専門家は提唱しております。『T;痛みやだるさ、副作用などの身体的苦痛へのケア(鎮痛薬、点滴、胸水
・腹水の除去措置をとる)。 U;病気に罹患した事による不眠や不安、病気や治療の影響による意識障害などの精
神的苦痛に対してのケア(カウンセリングや薬物の処方、リラクゼーション法を受ける)。V;その他、社会的役割の
遂行や治療費の捻出、 家族や知人、地域の人たちへの関わりへの心配などの社会的苦痛などへのケア(社会保
障制度の活用・ 生活設計支援など、 各機関や人との調整などの支援を受ける)』 など緩和ケアを取り巻く環境を、
系統的に整理して捉えておく必要があります。
緩和ケアを受ける方法としても、概ね3つの選択肢があるとされます。『@専門家で構成された緩和ケアチームを利
用するA緩和ケア病棟に入院するB自宅で苦痛緩和を図る在宅緩和ケアを利用する』 この3つの方法を病期に応
じて上手に活用できるような体制作りが検討されております。
緩和ケアは患者さんは勿論ですが、家族・遺族もケア の対象としております。
癌により引き起こされる苦痛を、ご自身や家族だけで抱え込む様な事をせず、お近くの病院 や地域の相談窓口を活用されて、大きな負担・苦痛を軽減されます様に。
* 2008/10、28〜11、01の癌学会でも緩和療法に取り組む医師がまだ少ないことが指摘されています。癌は 早期から切れ目無く痛みの緩和に努めることが癌対策基本法に掲げられるなか、 この問題はいまだに取り上げ
られております。江口研二帝大教授(内科)も「在宅緩和療法は十分に行われていない」ということを指摘されてお
られることも付記しておきたいと思います。
* 深刻な人材不足;癌対策基本法で整備が進む 全国375箇所(2009、04現在)の癌診療連携拠点病院でも、 緩和ケアに関する人材不足が深刻な状況と報告されております。 人材不足の当該医療機関では、当然適切な
緩和ケアの提供が 受けられないという事を意味します。 中には何のトレーニングを受けていない医師らが突然、
緩和ケア医を唱えるケースさえあるといいます。現在ケアチームでトレーニング中の医師歴7年目のある医師も、
「緩和ケアを系統だてて学んだことはなかった。患者さんの今の時間を充実させるサポートに限界を作ってはな
らない事が良く分かった」 と述懐しております。 (この様に医療機関にも、適切なカリキュラムを組み込んで、緩
和ケアに取り組んでいる組織もあります。) 世界保健機構(WHO)は 癌の痛みは治療できることを宣言し『患者
には痛みのコントロールのため十分な鎮痛薬を求める権利があり、医師には投与する義務がある』としています。
疼痛緩和ケアは、 癌の入院治療に区切りが付いた患者さんが、自宅に戻ることにより在宅での緩和ケアの必要
になるケースもあります。適切な疼痛緩和ケアを受けられる事は、在宅医療では、痛みをとるだけではなく、家族
との楽しい時を過ごせる事、生きることを支える事に繋がります。
* 医薬用麻薬張り薬フェンタニル・パッチ;国内ではフェンタニル・パッチは2001年に承認されています。これが 2010、01月に適用拡大されました。 (使用には様々な制約が課せられております。)フェンタニル・パッチはW
HOが勧める癌の痛みの治療方針で、最も痛みの強い治療に使用される医療用麻薬の一種です。医療用麻薬
にはモルヒネやオキシコドンもありますが、 これらは飲み薬や座薬であり、患者さんの状態によっては使用でき
ません。 そこでフェンタニル・パッチを胸や腕、太ももなどに貼る事で、有効成分フェンタニルが徐々に皮膚から
浸透して血管に入り、脳や脊髄に達して、患部からの痛みをブロックします。 このフェンタニル・パッチが癌以外
にも適用が拡大されました。欧米では脊柱管狭窄症、腰痛、膝関節痛などの慢性の痛みの治療に既に使用され
ております。 副作用も吐き気や眠気、便秘などの通常の医療用麻薬に共通するもの以外にも、更に使い方を間
違える事で死にも至る危険性もあります。フェンタニル・パッチは貼って直ぐ効くわけではなく、数時間後に効き始
め、30〜36時間で フェンタニルの血中濃度はピークに達します。 効力の持続も長いので張り替えは3日に1度
となっております。しかし、直ぐに効かないからと、何枚も張ると血中濃度は高くなり過ぎて、呼吸停止から死に至
ります。呼吸が荒れたり、呼吸回数が少なくなって来る場合には、直ぐにパッチを剥がし、医師に緊急連絡が必要
になります。緊急に麻酔拮抗薬の投与を受ける必要があります。使用には専門医の指導の下で、注意深く使用す
る事になります。 「コクランレビュー」による医療用麻薬の癌以外の痛みに対する効果の評価では「適切に使用す
れば、長期的に痛みを和らげ、 中毒や重い副作用のリスクを抑える事が出来る。 但し、より長期間に亘る効果の
調査が必要」としています。
§2 部位による痛み
骨/腫瘍や周囲の組織から疼痛物質が放出されますので強い痛みを伴います。治療には反応性に乏しく、骨折も 時に伴うために、辛いものがあります。